2012年5月9日水曜日

DTIP2012に出席して

DTIPSymposium on Design, Test, Integration & Packaging of MEMS/MOEMS)は、1999年のパリでの第1回開催から数えて14回目を迎えるが、IEEE CPMTが共催していることからもわかるように、もともとはMEMSの集積化・実装に力点を置いた国際シンポジウムであると理解している。今回は開催場所がカンヌ・コートダジュールということで、周辺からは「(本当は)何しに行くのか」と随分うらやましがられたし、参加を勧誘したドイツの知り合いからは「場所が良すぎるからと上司が出張を許可してくれない」という返事があった(おかげで彼の論文を代読すること破目になった)。しかし、出席してみると実際にはこの時期(開催は4月25-27日)のカンヌはある意味大変会議に向いた場所である。というのも、まず町がコンパクトでいわゆる観光スポットのようなところは皆無であり(黒沢明監督の手形くらいか?)、たとえ町をぶらぶらしても、ものの2~3時間もあれば事足りてしまうし、売りのビーチもまださすがに早い。というわけで南仏の太陽の下、缶詰状態で会議に参加したわけであるが、ここではMEMS国際会議(以下MEMS)と比較も交えながら、出張報告をしたいと思う。


規模で言えば、DTIPMEMSに比べ発表件数で1/4程度、出席者数では1/71/8であり、非常にコンパクトでアットホームな会議である。冒頭に述べたように、DTIPMEMSの集積化・実装に重きを置いた会議であることを考えれば、ある意味順当な規模とも言える。MEMSは採択率が30%以下という異常に人気の高い学会であるが、この低い採択率を勝ち抜くためには新奇かつ斬新なアイデアが必須であり、実装分野の研究やMEMSデバイス・加工技術が多くの技術要素の一つまたは一部であるような、GSNプロジェクトのようなシステム系の研究は旗色が悪い。そういう意味でいわゆる渋いテーマを扱うDTIPはある意味で貴重な存在である。ところで、MEMSの集積化・実装をめぐる議論は10年以上前から本質的には変わっていないと感じている。“実装はしばしば製造コストの大部分を占めることになりかねず”、それ故“実装はデバイス設計時から一緒に考えなければいけない”と言われているわけであるが、今回の招待講演で講演したスタンフォードのKenny教授をはじめ、何人かの著名なMEMS研究者が述べてきたように、「論文が書きにくい渋いテーマなので大学(や研究所)で研究テーマとして取り上げられない」こともあって、学会の議論としては堂々巡りの感がある。ただし、この会議に出席して、ここ5年でビジネスの世界では、この議論に終止符が打たれたのかもしれないとの認識をもった。主にコスト的な要因で「回路を一体的に形成するモノリシックMEMSはコンシューマー用途には向いておらず、回路は別につくり半導体実装技術で集積化するハイブリッドMEMSが現実的である」ので、「MEMSの実装技術は、いかに機械構造体を守る蓋を形成するかに絞られる」が、「多くの場合接合で蓋をするのは高コストであるので、モノリシック的に蓋を形成できるのが良い」ということのようである。もちろんこれはSi-MEMSの世界の話であるが、会議で比較的多くの発表があったポリマーMEMSやフレキシブル基板上のMEMSについても、実用化を考える以上、同様の考え方をすべきであろうが、半導体実装技術が適用できるかという観点での検討は未だ不十分との印象を持った。


GSNプロジェクトは、開発したMEMSデバイス(グリーンMEMSセンサ)の端末(ノード)への搭載、さらには端末を使ったネットワークシステムによる実証まで想定している以上、デバイスの開発段階で、ハード的にもソフト的にも“実装”を考慮せざるを得ないプロジェクトである。まさに、長年示唆されてきたように、デバイス設計段階で実装も検討しているわけである。会議に参加して様々な技術の話を勉強しながら、GSNプロジェクトは、新しいMEMSの(実装・集積化)研究としても、貴重かつ重要な取組みであると改めて確信できた。技術内容調査はもとより、そういう意味でも、実り多い調査であった。


(つくば研究センター長 伊藤 寿浩)