2014年1月24日金曜日

PowerMEMS2013 出張報告


ロンドンにおいてPowerMEMS国際会議、日英エネルギーハーベスティングがあったので報告する。前者においては全体的な印象として、エネルギーハーベスティングに関する発表が多く、かつて本会議で取り上げられた燃料電池やマイクロエンジン、宇宙での推進デバイス等の発表が激減した。またエネルギーハーベスティングについても、携帯電話用電源に関するものは減り、センサネットワークに関する発表が増えている。このことはエネルギーハーベスティングが携帯用途のmw級の発電には適用が難しいことを示しているのかもしれない。また体内留置型デバイス用のグルコースバイオ燃料電源の開発(グルノーブル大学のチーム)や人工内耳用のピエゾ電源(韓国のKIMM)等のライフ応用も話題のトピックである。全体として圧電、電磁力による振動型発電に関する発表が多かった(約60件のオーラル発表中19件)。
エネルギーハーベスティングの発表が多かったなかで、従来からあるマイクロリアクターやアルコール系の燃料電池の開発も東京理科大学と産総研のチームが継続して発表しており、時流に流されない長期的な地味な研究も評価されている。
POWERMESの会議中に日英エネルギーハーベスティングに関するワークショップが開かれた。これは日英の同課題に関する企業のコンソーシアム同士の意見交換会である。
日英の企業の興味の中心はセンサネットワークの実用化にあるが、応用として通信やセンシングの信頼性に重きを置いているために、ターゲットとする発電量は数百mW程度である。これを達成するとなるとシステム全体が大きくなり、MEMSを必要とするかどうかが疑問となる。筆者はセンサネットワーク関連の開発に関して、話題提供を行った。主たる内容はエネルギーハーベスティングもセンサネットワークにとって重要であるが、センサネットワークシステム(センサや信号処理、通信)の低消費電力化が最も重要であることを指摘した。
滞在中にインペリアルカレッジを訪問した。同校はロンドン内にキャンパスを持ち、欧州の工科系大学ではオランダのアイントホーフェン工科大学とともに常にトップクラスを保っている。国内的にもオックスフォード、ケンブリッジにつぐ有名校である。
今回は同校のMEMSや微細加工を専門とするRichard SYMS教授のグループを訪問した。このグループはもともと光MEMSが専門であったが、現在は主任である同教授が医療用マイクロデバイス、Yeatman教授とHolmes教授がPowerMEMSLusyzin准教授がRF-MEMSを担当している。主任であるSYMS教授によれば医療用デバイスは現場に導入するための様々な制度や慣習を乗り越えることが最も困難で、特に病院のような実際に働く人よりも、官僚的な監督者の多い社会ではイノベーションを進めるのが難しいという意見をいただいた。現在同教授はインペリアルカレッジ内の若手の医師を協力することにより、カテーテル型のがん細胞の検出装置を商業化するところまで来ている。アカデミックワールドに生きる大学教授が自己の研究成果を社会に役立てるレベルまで責任をもって開発を行うという責任感の強さに敬意を表したい。
 物価高なうえに寒い場所、かつ食事があまりおいしくないために12月のロンドンは観光には不向きで面白くなさそうな印象を抱くが、せっかくの機会なのでいくつかの写真をお示しする。
1番目と2番目の写真は学会が開かれた会場のそばにあるSt.James公園の風景である。日本の都会は自然と触れ合える機会が少ないがロンドンでは鳥や小動物と身近に触れ合うことができ、市民の憩いの場所となっている。


写真1

写真2

写真3

 
3番目の写真はとまったホテルのレストランのパンフレットである。日本人も外国語を誤用あるいは誤訳して失笑を買うことがあるが、英国でも似たことがあるという事例である。

 
 

写真4
 
最後の写真は比較的新作のミュージカル”I will Rock You”の会場に貼ってあった写真である。12月のロンドンは15時を過ぎるともう薄暗く、観光に適さないところのように思われるが、長い夜をミュージカルに興じたり、パブでビールをたしなむ大人(筆者はそうではないが)にとっては楽しい季節であるかもしれない。
プロジェクト・リーダー 前田 龍太郎

2014年1月10日金曜日

PowerMEMS 2013 参加報告その3

 国際学会PowerMEMS2013(12/3-6)に参加しました。会議の背景は先の二人が記述済みなので、そちらをご参照ください。
 開催地は英国でした。英国といえば、デヴィッド・ボウイ、アーサー・C・クラーク、カズオ・イシグロとクリストファー・プリーストですが、もちろん文学的探究が目的ではありません。今回は、つくば研究センターで遂行中の圧電デバイス開発に関する成果報告と、最新の技術動向の調査を行うため、本会議に参加しました。
 成果発表について、私は会議3日目に口頭発表を行いました。発表の概要は次の通りです。省エネルギーに資するセンサ網へと応用される、圧電薄膜デバイスのための量産技術の開発を行いました。大口径(200 mm) SOIウェハを用いてユニモルフ圧電振動発電デバイスを試作し、圧電特性を評価しました。双極性パルス分極法による発電量の向上について分析しました。
 以上の発表について、圧電特性の向上のための分極処理における支配的な因子はどれかや、他の因子を検討しているか、などの質問があり、当該技術への関心の高さが確認できました。研究の動機が高まり、また嬉しさを感じました。発表のあとに、このように自分の研究に関心をもって話をしてもらえるのは技術者の喜びと思います。
 会議全体に対する感想について。とくに環境発電素子に関する発表を注意深く聞きましたが、素子自体の改良は落ち着きつつある印象を受けました。電力をどのように貯めて、効率よく使うのか、という回路の研究へ比重が移りつつあるようです。
 また個人的に興味深かった発表として、STMicroelectronics(France)のStephane Monfray氏より、CMOSコンパチな技術で作製する熱-機械-電気変換素子に関する発表がありました。パッケージングまで含めた総コストを低くできることが売りであり、またこの技術戦略は同社の得意なやり方であります。その産業的可能性に興味を引かれましたし、自身の企業の哲学に基づいた研究で格好いいなと感じました。


開催場所The Royal Societyは英国科学の殿堂なので
有名人の写真や肖像画がたくさん掛けてあります
(さてこの方々は誰でしょう?)

口頭発表中の筆者

発表のあとの食事は格別です

つくば研究センター 森脇 政仁